大型図録本　麻田鷹司画集　1942～1979　愛蔵版作品集

麻田鷹司　著

講談社　発行

1980年

267ページ

35.7ｘ27.5ｘ4

函入　金箔押　布張り上製本

カラー・モノクロ

カラー図版　75点

モノクロ図版　192点

定価　38,000円

※絶版

昭和の日本画家、麻田鷹司の大型愛蔵版画集。

1942年～1979年に制作された、カラー作品図版75点、モノクロ作品図版192点を収録。

巻末の作品目録には、計267点もの各サイズ・製作年・所蔵先　記載。各作品の製作年・寸法ほか、論考テキスト、著名人による紹介文など情報満載、麻田鷹司の作品やその人となりに関してまとめられた類書もほとんど無く、まとまって作品が収載された本書が作品集としては唯一のもののようです。愛好家必携の大変貴重な資料本、画集・作品集。

【目次】

序　麻田鷹司

原色図版

単色図版

本文活版

　麻田鷹司の人と作品　河北倫明

　麻田鷹司の芸術の展開　桑原住雄

　麻田鷹司の資質　永井信一

　伝統にもっとも新しい生命を　吉村貞司

　古くて新しいつき合い　上村松篁

　麻田さんの絵の魅力　武見太郎

　船岡山から龍安寺へ　麻田辨自

　麻田鷹司年譜　中島理壽

　図版目録

【序文より】

学校を出てからほとんどといってよいほど、風景画ばかり描いて今日に至った。モデルへの気がね、遠慮もなく、風景はいつもそこで私を待っていてくれるからと、至って安易な気持ちから風景画の道にはいって行ったと言ってもよい。

　だが、風景画ほど対象との出遇いの決定的なジャンルも少ないだろう。その対象との間には一期一会の対決の瞬間がある。見すごし、通り過ぎてしまう不安がいつもつきまとっている。ある風景が私のものとなるか否か。そこに心が通い合えると感じたとき、それまでのただの眼の前の景色にすぎなかった存在が私の風景となって私を釘付けにする。

　見すごしてしまった風景は、ついに私のものとはならない。その景色にとって私は他所者にすぎない。他所者で終始する写生行ほど淋しく空しい旅はない。しかし何か予想もしなかったものに出遇うかも知れない。そんなちょっとした期待が、いつも私を旅へいざなってくれた。

　ただ、漠然と絵になりそうな所を求めて歩くことから始めるより方法を知らず、車窓に、ものになりそうな景色を見つけては途中下車し、無名の山河をさまよい、望外の収穫に画嚢をふくらますこともあれば、失望の重い脚をひきずることもあった。

　そのうち、いわゆる名所旧跡とよばれている所の近辺の風景が充実していることに気づき始めた。

　ある年の冬。小雪舞う夜半、宮津駅に降り、そのまま宿に入った。朝、雨戸をあけた外は、目ざましいばかりの雪の天之橋立であった。日本三景の一つとしてあまりにも有名な景勝の地である。成相山に立つと、松林の砂州は一直線にのびた果ての空と海。まさしく天のかけ橋の息をのむ風景であった。

　我々の先祖が名所とよび名勝とよんで愛してきた風景とはどんな所であったのか、今あらためて見直さねばならないことをこの天之橋立は教えてくれた。

　松島へも行って見た。いわゆる松島的風景とは、低俗な名所絵的風景の代名詞にまでされるほどで、少なくともここ半世紀以上は、まともな絵かきの相手にする値打ちもない、いわゆる名所に下落してしまった所である。だが松島こそＩ松島の月まづ心にかかりて―と芭蕉を奥の細道の旅への想いに駆り立てた所ではなかったのか、未だ見ぬ松島にあこがれ漂泊の旅にたたせたものは何であったのか。

　もちろん、厳島へも行った。この島を前にした時、私の耳から連絡船の騒々しいスピーカーの音は遠のき、海峡をへだてて黒黒と横たわる島影に、まぎれもなく神のいます島をそこに見たように思った。

　ここ厳島は人々の眼前にありながら、瀬戸の潮流は速く、渡れそうで渡れぬこの島に古の人が神の存在を信じたことは想像に難くない。島の主峰を弥山と言い、修験道の行場で、またここに弥陀の浄土を観じ、山越しに出る月を山越の弥陀に擬したという古人のはなしもうなずかれる山の形である。

　それと気付かぬまま、私の風景を求めての旅のうち、那智に始まり清水寺、天之橋立、竹生島は西国三十三箇所の札所、観音霊場の道であったし、京都の山々に神奈備の山々が画面に現れて来たりする。

　行く先々できまったように、神や仏のすみかにぶつかってしまう。山容に神性を見、仏性を観じるのが日本人の宗教観の特質とするなら、名所はそのような条件にこたえられる所でなければならないのかも知れない。日本人の宗教観、風景観を離れては名所は存在しない。かつて名所は人々に知られすぎているが故に軽蔑され、画の主題として低俗なものと見棄てられてきたようだが、今、私は名所が名所でありえてきた所以を見直すことによって、日本人の画家であることを自己検証しようと思う。

　名所は時代を超えて名所であり得た。杖をひき、山容に島影に神仏を感応した遊行巡礼の心の追体験によって、この手垢にまみれた名所は私に新鮮な共感をよぶ。名所は、私には避けて通れぬ存在として、また心の通い合える確かな対象として私の前に立ちはだかっている。名所を考え、これに対決して、歴史の共感の上にたつ私の風景画をおし進めて行きたいと思っている。

　講談社から突然画集出版の話があったのは、ちょうど昨年私の回顧展が企てられているときであった。回顧展すら画映ゆい思いなのに、画集までもと急には踏みきれなかったが、画業半ばとはいえ、十三歳の時の鮭の写生から今日までは決して短い月日とは言えず、このあたりで過ぎ去った日々のあしどりを一冊の画集にまとめておくのも私自身を省みる良い機会と思い、この出版の企画をお受けし、協力することになった。

　画集作成にあたり、あたたかい文章をお寄せいただいた執筆者の方々、熱心に御協力下さった美術館、画廊、所蔵家、その他多くの方々に心から感謝申し上げる次第である。

昭和五十五年三月

麻田鷹司

【麻田鷹司の芸術の展開　より　一部紹介】

二期に分けられる画業とその出発

　麻田鷹司の今日までの画業をふりかえると、大きく二つの時期に分けて考えることができる。第一期は昭和二十三年の第一回創造美術展に入選した《夏山》から昭和三十四年の《小太郎落》までであり、第二期は昭和三十五年の〈那智〉の連作から今日までを含む作品群である。《小太郎落》から〈那智〉の連作までには一年のひらきしかないうえ、この二作は深く関連しあうものを互いにもっているので、それほどはっきりと離しておくわけにはゆかない点もある。つまり、この二作は相互に同じコンセプトを分ちあう性格をもっていながら、前者は第一期の道程と成果とを集約的に収斂しているし、後者は第一期を引き継ぎながら第二期の展開へ向かって開いてゆくものを孕んでいる。そういった意味の近接性と異質性とが二作の性格を対照的なものにしているが、いずれにせよ、《小太郎落》が第一期の終点だとすれば、〈那智〉連作は第二期の出発点だと見て差し支えあるまい。昭和五十四年の回顧展が《小太郎落》以降に焦点を絞ったのは適切だったと言えないことはないのである。

　もう一歩突っこんで眺めると、第一期と第二期をそれぞれ前後二つの時期に分けることができる。第一期の前半は昭和二十八年から二十九年あたりまでで、この時期の麻田は工場とか都市風景、動物、鳥、樹木、山や池の風景など、興味の移るままに、そして眼にふれるもののおもしろさに惹かれるままに描いている。後半に入るとモチーフは風景に絞られてくることが特徴で、次第に麻田らしい世界がちらつきはじめてくる。この時期は最も激しく模索している数年問である。第二期の前半は《那智》からはじまって〈佐渡〉のシリーズや《湖北》などが生まれるほぼ十年間で、日本の風土に深く分け入ってくる過程がここで見られる。ついで昭和四十四年の〈京都〉の連作以降を後半期として考えてみたいが、この十年問は京都を中心として形成されたものであると同時に、テーマのたて方に一段と掘り下げたものが認められる時期になっている。そして麻田の世界が名実ともに確立され、日本の現代山水画の強力な担い手として衆目を集めた時期である。

　具体的に見てみよう。

　まず第一期に入るまでの助走の時代と第一期の初期について麻田自身の語ったことを要約すると次のようになる。彼が画家になろうと思いついたのは小学生の頃で、小学校を出ると迷うことなく京都市立美術工芸学校の絵画科に入っている。昭和十六年である。現在は市立日吉ヶ丘高校になっているが、この学校で日本画の絵具の溶き方を教えてくれたのが猪原大華であった。ここでは一年から二年へ、二年から三年へ進むとき、進級制作を描かされることになっていて、麻田少年も勿論それを描くわけだが、彼は一年の時からずっと毎年金賞をとり続けている。その時分から既に頭角を現していたようだ。一年から二年になるときの進級制作《鮭写生》（昭和十七年）が今回この画集に収録されているが、これが金賞をもらった初めての絵で、父麻田辨次氏が息子（以下略）

【図版目録より　一部紹介】　サイズ・製作年・所蔵先　記載

●原色図版

宗像杜沖島　宗像社沖ノ島　F150　1978年　以後省略

宗像杜沖島　部分

雲岡石窟仏〔三曲屏風〕

赤岳残雪

越路雪嶺

奥入瀬の瀧

奥入瀬の径

宇曽利湖の鴉（恐山）

武蔵野の樹

秋峡

衣笠山

詩仙堂

石水院

北山杣道

清瀧川雪景

清瀧川雪景　部分

貴船川

鳥居本

銀閣雪景

嵐峡夏景

嵐峡秋景

嵐峡冬景

比叡残照

渡月橋仲秋

遍照寺山広沢池

九重桜

天地石壁一之倉

榛名

厳嶋図　厳島図〔二曲屏風〕

山湖雪晴

雪里

瀧

松嶋図〔二曲屏風〕

巴里

ポン・ヌフ　（セーヌ）

竹生島〔三曲屏風〕

天橋雪後図〔二曲屏風〕

天橋雪後図　部分

越前岬

天橋図〔四曲屏風〕　部分

雪後山水

嵐山

祇王寺

鴨東東山図〔四曲屏風〕

金閣雪景図

西陣

八坂塔

清水舞台図

清水雪景図

東寺

御室桜

根尾

湖北〔四曲屏風〕

岬への道

潮

漁りの村

佐渡〔四曲屏風〕

風濤

峭森

東尋坊

海角

雲烟那智

能那智

嵩

小太郎落

白い潮

大王崎残照

残照

夏山

鮭写生　軸

白梅（新潮表紙）

椿（新潮表紙）

夏庭（新潮表紙）

もみじ（新潮表紙）

初富士（新潮表紙）

●単色図版

山の池  ボートを作る  蜻蛉尻町  ガードの月  さぼてん  波止場  牛舎  装蹄場  鳥のいる作品  鷺  沼沢  燈台の町  臨海の村  山の池  湿原  沼  陶土の丘  陶土の町  樹  木精  樹  樹々  波切  樹響  壁嵩  鹿落山水  曼珠沙華  下田街道  島のある海岸  断層  青銅風景  石水〔四曲屏風〕  野島崎  崖壁  岩礁  岩礁  青銅風景〔四曲屏風〕  大日岳  立山遠望  雪景  風景  山峡  那智  那智  那智  那智  那智  月明那智  峡  風景  巌冬  嵐山  霜雪鹿落溪  立山への道  峡  奥大日岳  鹿落溪  溪  寒溪  裏磐梯  霜峭  峭  東尋坊  北の海（岬）  ありそ  那須（Ｂ）  澗  浅間  湖  岑  雪景  雪原  那須  雲中妙義  那須  もれ日  黄金岬  嶮  多摩  東尋坊  黄金崎  石廊崎（入海）  黄金岬  礁  冬澗  陽と海  岩礁  高原  箱根峠  霽れる芦ノ湖  岳  石廊崎（長津呂）  岳  駒ヶ岳  嶺  山峡  風景  風景  那須  岑  秋岳  奥多摩  那須  雪峡  冬峡  根子岳  飛瀑  蓼科  風濤（佐渡）  濤風  箱根  湖北  湖北  茫涯  龍頭瀧  凪  雲山  波勝  岬  岬  雲見  晨潮  華厳  華厳  鷹ヶ峰光悦寺  嵐山雪景  清瀧川  鷹ヶ峰雪後  嵐峡  八坂塔  金閣雪景  月下雪溪  凍瀑  天橋図〔四曲屏風〕  天の橋立  雪晴  村里暮雪  暮雪風景  巌濤  荒磯  嵐峡雪後  雪景  嵐峡雪後  伊吹  雪晴  林沼  瀑  緑澗  北海  清瀧川雪景  冬  越前岬風濤  竹生島  沼の風景  新緑瀑  秋瀑  錦秋瀑  秋景  錦秋  霜  山湖雪景  雪景  雪後  瀧  厳島  瀧図  雪景  雪里  東山月ノ出  錦秋一之倉  朝陽一之倉  若王寺の杜  岳  八瀬雪景  八瀬  衣笠山雪景  大原雪里  神護寺遠望  越路  野辺山ヶ原  あだし野のやみ  鳴子峡  奥入瀬秋溪  奥入瀬梅雨  おもだか（新潮表紙）  梅雨（新潮表紙）  水蓮（新潮表紙）  露（新潮表紙）  仲秋（新潮表紙）  山と紅葉（新潮表紙）  藤（新潮表紙）  寒林（新潮表紙）  桔梗（新潮表紙）  

★状態★

1980年のとても古い本です。

函の上下布張部分、布張り上製本の表紙外観全体に経年しみが点在、背ヤケあり。（色の薄くなっている部分が点在）

天小口、余白部周縁、扉や本文余白部などに経年しみが見られますが、

カラー写真図版良好、目立った書込み・線引無し、

問題なくお読みいただけると思います。（見落としはご容赦ください）